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思いわずらうことなく愉しく生きよ。

思いわずらうことなく愉しく生きよ
江國 香織 / 光文社



犬山家の三姉妹、長女の麻子は結婚七年目。DVをめぐり複雑な夫婦関係にある。次女・治子は、仕事にも恋にも意志を貫く外資系企業のキャリア。余計な幻想を抱かない三女の育子は、友情と肉体が他者との接点。三人三様問題を抱えているものの、ともに育った家での時間と記憶は、彼女たちをのびやかにする。


江國作品によく表れる、大人の女。そして姉妹と家族。それらのキーワードを集めて、今まで書いてきたものの集大成なきがする。
それくらい、ずっと江國作品を読んできた人間には衝撃が走った作品だと思う。
タイトルは犬山家家訓。
犬山家の夫婦は娘達が成人後に離婚しているが、関係は円満だ。原因は父の浮気だが、その女とも直ぐに別れてしまったらしい。母は以前家族が暮らしていたところに建ったマンションで暮らしている。父は江古田で1人暮らし。
犬山家は娘達が少女の頃、大変裕福だった。それと両親の教育が彼女達を随分のびやかに育ててしまった。悪い事ではない。だけど、彼女達に関る人間にとっては多少迷惑だ。
長女の麻子は母に似た美人。彼女がこの話のキーパーソンだ。弱弱しい印象だった彼女は、ラストでは強く伸びやかな犬山家の女に立ち戻っていた。
次女の治子はバリキャリの強気な女性。顔立ちは家族の中で一番はっきりした目鼻立ちをしている美人だ。収入の少ないフリーのライター熊ちゃんと同棲中。彼女は自己中ながらも恋愛を謳歌している。どうしようもなく、現在の恋人にのめりこむタイプらしい。口では随分と勇ましい彼女だが、私が思うに一番弱い女性なのではないかと思う。いや、あくまで犬山家基準だけど。一般女性から比べたら、彼女は十分に強い。彼女は分かり難いがやっぱり伸びやかな女性だ。
そして三女の育子。一般的に見ても、犬山家基準で見ても、彼女は変わっている。幼い頃からキリスト教の色彩に魅せられ、彼女の現在の家にはキリスト像やマリア像、ロバや、それらの絵葉書なんかが大量にある。でも彼女はキリスト教徒ではない。彼女は恋愛を恐れている。感情に振り回される事を恐れていると言っていい。達観したところがあり、周りの人間を子供だと思っている、が多分彼女が一番子供じみている。
犬山家の姉妹は性に関して随分とフランクな感覚を持っている。長女は既に結婚している為、その手の話題がないが、次女は熊ちゃんを愛していながら、抗えない体の誘惑には逆らわない。愛とセックスは別だ。と考える女性のようだ。
育子はセックスとはコミュニケーションの一つだと考えている節がある。恋愛をしない彼女なので、それほど重要な位置にないのかもしれない。友達のカレシと寝てみたりするのだが、全く悪びれたところはない。

この話の見所はやっぱり長女、麻子だと思う。彼女の心の歪みに引き込まれていく気がした。
でもどこかで切り替わってしまう彼女の意識に、けっこう置いてけぼりをくらって、心細い想いをした。その時手を引いてくれるのは、次女と三女だ。
人って、それぞれ病気なんだと言う麻子の言葉は納得してしまう。
皆どこかに歪みを持って生きている。その歪みの本は間違いなく家族と云う小さな檻だ。
読後の感想は、女って怖い。
漠然と描く女と言う生き物がこの本には分かりやすくつまっている。
by nichika-1958 | 2007-06-26 13:57 | 読書。